今や御浜町(みはまちょう)はマイヤーレモンの産地。たかみ農園の好奇心

インタビュー

Share on

インタビュイー プロフィール

インタビュイー プロフィール

たかみ農園 オーナー 田中 高美さん

兵庫県出身、趣味のサーフィンが縁で御浜町にやってきた。農業資材関係の仕事に就き肥料や農薬、農業機械などの知見を得たのち、マイヤーレモン農家として歩み始める。たかみ農園では自ら2ヘクタール、知人などが栽培する5ヘクタールの合計7ヘクタールの販売を管理。年間130~140トンものマイヤーレモンを出荷する。その量、なんと三重県ナンバーワン。

「御浜町自体はみかんの産地でもありますが、そこでみかんをやるのもな…と思って(笑)。」

日本のどの地域にも言えることだが、御浜町の農家も高齢化が進む。田中さんは仕事を通じて高齢者の農作業を手伝う中、自分でも「作ってみよう」と思い、選んだのがマイヤーレモンだ。

田中さんがマイヤーレモン栽培を始めた頃、周りにはレモン農家がほとんどいなかった。そこから約10年が経ち、三重県は徐々にマイヤーレモンの産地として周知され、今や生産量全国一位を誇る。

今回は、プリンタイムで使用させていただいているマイヤーレモンを栽培するたかみ農園の田中さんに、マイヤーレモンについて、今後について話を伺った。





マイヤーレモンとは?御浜町との相性

まんまるのレモンらしからぬ姿、これがマイヤーレモンだ。(写真提供:たかみ農園)

マイヤーレモンは、レモンとオレンジの自然交配から生まれたレモンだ。特徴は、皮が薄く果汁が多いこと。1つの樹から収穫時期によって緑色と黄色という異なる色、異なる味が味わえることだ。

「9月~11月の緑色の時期は、ややレモン寄りの味で糖度は6程度。11月~3月までの黄いろの時期はややミカン寄りの味で、糖度は10~11にまで上がる。果汁が多いのは、オレンジの流れを汲んでいるから。リスボンレモンと比較しても約1.5倍の果汁量なんですよ。」

緑の時期はきりっとした酸っぱさを好む人、黄色の時期はプリンやケーキ、洋菓子などを作る人に好まれるそうだ。

御浜町は、標高1,000m~2,000mもの山々が連なる紀伊山地、七里御浜と世界遺産に囲まれた土地にある。気候は年中暖かく、日本でも随一の豊富な降雨量が特長だ。水分に恵まれた御浜町は、レモン栽培に適していると田中さん。

「レモン栽培には、水と窒素という肥料成分が欠かせないと思っています。」

高接ぎから苗木に植え替えて世代交代

白いテープの下部分がみかんの樹、上部分は高接ぎしたレモンなのだそう。

マイヤーレモンの樹には2つの種類がある。苗を植えて育った樹と、「高接ぎ(たかつぎ)」という方法で育った樹。高接ぎは、みかんの樹の根元数十センチのところからバッサリと切り落とし、その上にレモンの樹をつなげる方法。木の血管同士をうまくつなげれば、根っこのみかんとその上のレモンがうまく交配し、マイヤーレモンが育つのだ。

DNAは同じだから、どちらも同じ味。植物の生命力の強さを感じずにはいられない。

たかみ農園では、みかんの樹に高接ぎをしてレモン栽培を始めた。ただ、高接ぎの手法だと10年をピークに収穫量が落ちていくという。数年前から樹と樹の間に新しい苗を植え、苗が育った段階で高接ぎの樹を倒す。今、切り替えの時期を迎えている。

たかみ農園のサイトには「皮ごと食べられるレモン」というキャッチフレーズが。ワックス、防カビ剤、化学肥料、防腐剤、除草剤も不使用だ。

「レモン販売を始めて、食事療法をされているお客様から『農薬の少ないレモンだと皮も全部使えるのでありがたい』と言っていただいたんです。そこから、できるだけ農薬を減らそうと。農薬を7割減らし、「みえの安心食材」にも認定されています。」

マイヤーレモンの中身を見て出荷を判断

外国産は船で運ばれるうち、収穫時の緑色から黄色に変わる。「緑」は国産の証。(写真提供:たかみ農園)

9月ごろから収穫が始まるマイヤーレモン。「収穫OK!」の合図は見た目ではわからない。レモンを割ってみて、果肉のでき具合で判断する。8月だと、果肉がパサパサで果汁も出ないが、9月に入ると果肉がふっくらして水分を含み、まるまってくる。そこから収穫期のスタートだ。

収穫期は翌年3月まで続く。ただ、ニーズの高まりと寒波の影響も踏まえて、1.2月頃に販売を終了する年もあるそうだ。

「レモンは注文いただいてから畑にとりに行き、お送りしています。できるだけ新鮮なうちにお届けしたいから。」

マイヤーレモン栽培の天敵は寒波だ。樹の外側から収穫し、徐々に内側の実を収穫することで、極力寒波を受けない工夫をしている。また、肥料をやりすぎると皮に厚みが出るため、適切な時期に適切な量の肥料をやり、天候や温度にも注意している。

レモンはみかんのように剪定や摘果をしない。樹勢が強いのだ。その分、窒素の量を少し多めに、いつどれだけ必要な量をあげられるかが重要になってくる。

人との助け合いは三重県を越えて

5月下旬、花が落ちる頃。小さな小さなマイヤーレモンの実がチラリ。

取材にお邪魔したのは5月下旬の農閑期。9月から3月は農繁期で収穫・出荷と大忙しだが、農閑期は1カ月のうち5.6回畑に行く程度だそう。

「サーフィン仲間で農業家のコミュニティがあって、お互い忙しいときに手伝いに行ったり手伝ってもらったり。なので、農閑期には鹿児島や山梨、京都、徳島などに行って農作業を手伝っていますね。旅行が大好きなので、楽しみながらお手伝いできて、人手不足も解消できる、また違った知識も入ってくる。ありがたい環境ですね。」

マイヤーレモン栽培を通じて増えた、地域の仲間。普段別の仕事をしていて畑を放置している人に「レモンやらへんか」と声をかけ、それが生計に役立っているという。

「子ども達にアルバイトをさせることもでき、雇用が生まれて収益も生まれて、高齢者問題の解消にもつながっている。そこにやりがいを感じていますね。」

好奇心が呼び込む新たな世界

山を切り開いた広大な土地に、マイヤーレモンの樹々が風にそよぐ。

今も年に2.3回は広島県の瀬戸内にレモン栽培を学びに行くという勉強熱心な田中さん。今後について教えてくれた。

「マイヤーレモンを軸に、ライム、アボカド、パパイヤなどもやっていこうかと。実はレモンの輸入量年間約5万4千トン(2019年) に対して、アボカドは年間約8万トン(2020年)もあるんです 。国産のニーズもあると思い、数年前から植えていた苗で徐々に育ってきたものがあって。これはいけるかなって(笑)。」

ライムは昨年初出荷したそうだが、苗を植えてから収穫までに3、4年かかるそう。6年ほど前から植え始め、一度鹿に全部なぎ倒されたのち再び苗を植え、ようやく収穫を迎えた。

知らない土地、知らないことにも不安など全くなく、むしろワクワクして飛び込んでいけるという田中さん。好奇心は尽きることなく、これからも未知の世界へ突き進んでゆく。

(取材/ライティング:杉本友美)



マイヤーレモンの爽やかさとチーズのコク、両方を楽しめるプリン

マイヤーレモンチーズ

400円(税込)

料理研究家さんからレシピを提供していただき実現した、三重県産マイヤーレモンを余すことなく使用したプリンです。レモンムースを上層、レモンチーズプリンを下層にした2層仕立てです。ふわっとしたレモンムースが爽やかに香り、濃厚なクリームチーズのプリンがこっくりとろけます。

くわしく見る