四国山地からの風に抱かれて~千光士農園の柑橘類栽培と地域での取り組み~

インタビュー

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インタビュイー プロフィール

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千光士農園 代表 千光士尚史さん

高知県安芸市にある安芸川周辺で、土佐文旦(柑橘類の一種)や柚子をはじめ、何十種類もの柑橘類を栽培している。実家は元々祖父の代から続く柑橘類栽培の農家であり、31歳の時に農園を継ぐことを選んだ。当初は文旦とみかん、少しの柚子だったが、現在は文旦と柚子を主とし、継いだ当初の約3倍の面積でさまざまな柑橘類の栽培に尽力する。

「柚子には古くから四国地域に根差した食文化があって、僕らにとってもすごく愛着のある作物なんですよ。」

高知県東部の柚子農家では一家に一台ずつ柚子搾り機があるという。「お酢」といえば柚子を搾り機でしぼった柚子果汁「ゆのす」を指し、古くから一般家庭にとって身近な存在だった。農家には必ず一升瓶に入った「ゆのす」があり、保管しておいてさまざまな料理に使うのだそう。

近年の高知における柚子栽培は、営利栽培によって広がったとの見方もあるが、必ずしもそれだけではない。プリンタイムで使用させていただいている柚子を栽培している千光士農園さんに、柑橘類栽培について、今後の展望について話を伺った。





高知県安芸市は柑橘類の宝庫

四国山地からの風と太陽の光を浴び、のびのびと育つ柚子の樹々。(写真提供:千光士農園)

千光士農園は、高知県安芸市を二分するように流れる安芸川の周辺に位置する。海からは約5キロほど離れ、昔懐かしい田園風景が広がり、美しい川にはあまたの虫が自慢の音色を奏でる。

高知県は柑橘類の主要産地で知られ、土佐文旦と柚子は全国1位、ニューサマーオレンジとポンカンは全国2位を占める。土佐文旦は全体出荷数の約9割、柚子は約5割が高知県産のもので、柚子に至っては全体の約25%弱が安芸地域産なのだ。

柚子は古くから高知県の中山間地で栽培されていて、1970年代以降に高知県での生産が一気に伸びた。背景には先人の方々による栽培や販売の努力に加え、高知の気候にもある。太平洋に面し、適度な降雨量。四国山地からの風が吹き降ろす平野部は、温暖なだけでなく寒暖差もあるから、柚子の栽培に適していたのだろう。

「うちもいろんな種類の柑橘類を栽培しているが、ここら辺の人たちは恐らく自分の好きなものを好きなように植える気質があるんじゃないかな(笑)。」

青柚子と黄柚子

7月頃から出荷が始まる青柚子。(写真提供:千光士農園)

柚子は例年5月頃に花が咲き、その花が落ちて実がつき、徐々に大きく育っていく。柚子には主に7~9月頃に収穫する青柚子、11月頃に収穫する黄柚子があるが、実はこの二つは同じ木から育つ。違いは収穫期だけ。青柚子は、市場規格に達した大きさのものを順次収穫している。

千光士農園の柚子は、高知県の中でも南部方面に位置することもあってか、香りの良さに加えて苦みが少ないと言われる。柚子胡椒として使っている方には、とても作りやすいと評判だ。また栽培管理を徹底していることもあり、皮を使いやすいとも評される。

柚子の市場は昨年も「足りない」状況だったそうで、ニーズは非常に高い。海外でも生産されているものの、やはり日本の柚子の香りやクオリティの高さでは他国の追随を許さない。

「市場で高い評価をいただけることは農家としても励みになりますし、栽培する上での熱意も大きく変わってきますよね。」

意外と知られていない、柚子の歴史と文旦の貯蔵法

11月頃に収穫される、おなじみの黄柚子。(写真提供:千光士農園)

実は日本における柚子には古い歴史がある。元は中国原産だが、奈良時代ごろに日本へ渡来し、平安時代には貴族の間でも宴会の席には欠かせない存在だったそう。その後、四国へは、源氏と平家の戦いの折に平家の落人が種を持ってきて広がった、修験道が広げたなど諸説ある。江戸時代には薬事関係の本にも柚子が登場するなど、古くから柑橘類の中でも貴重な作物なのだ。

また、千光士農園では例年5~7月頃以外の約10か月間は柑橘類を提供できる体制になっている。というのも、ほとんどの柑橘類は12月末までに収穫しておき、その後は冷蔵庫やコンテナなどで保管して適宜出荷しているのだ。

文旦については、樹の下にわらのベットを作って保存、貯蔵する「野囲い(のがこい)貯蔵」をしている。そこで追熟させることで、酸味と甘味のバランスが整った美味しい文旦になるという。自然の力を活かすことで風味が増す、昔ならではの手法だ。

花が見ればホッとする。やりがいと苦労

花が咲いてこそ、実が育つ。(写真提供:千光士農園)

千光士さんがやりがいを感じる瞬間は大きく3つあるという。まずは収穫期。

「例年よりも良いものができたとき。例えば肥料のやり方とか、毎年実をならせるため、成長中の実を途中で落としていく「摘果」という作業とか。いろんな工夫を重ねた結果、大きくて中身の良い実ができればうれしいですね。」

次に花の時期。5月に花が咲かなければ実はならない。花が咲くかどうかが一番のポイントだという。例えば摘果が少なくて剪定が悪くて花が少なかった…つまり、木に負担がかかりすぎて今年はうまく実がならなくなってしまうのだ。毎年一定量確保するためにも、花が咲いた時にはホッとするという。

そして、お客様からの生の声も千光士さんの励みになる大きな存在。ネットで直接販売した際、美味しいとのレビューをもらうと「やっぱり素直にうれしい」とほほ笑む。

ちなみに1年を通しての繁忙期は2月と5月頃。2月は文旦の出荷ピーク、5月は柑橘類の花が咲き始め、土佐文旦には一つ一つ人工授粉の作業が必要。そこから収穫まではほぼ農作業中心の日々が続く。

千光士さんが見据える今後の展望

「どこに行ってもよくしゃべる人だよね」と周りから言われるという千光士さん。今後の展望について尋ねてみた。

「今は植えたいものをどんどん植えているところ(笑)。文旦と柚子の2つを軸にしつつ、他の品種も増やしていきたいですね。」

また、将来はどこの田舎も共有の課題かもしれないが、団塊の世代が農業から離れていったのちにどうなるか。現状を維持して、さらに発展させていくかは千光士さんも喫緊の課題だと考えている。

「僕らにできることは、耕作放棄地を減らす、農業を通して雇用を生み出す、農産物を県内外および海外に出荷して地元へお金をもたらす、この3つだと思っています。これらを、地域活性化のためにも真剣に考えていかないといけない。そして、農業を通じてお客さんの笑顔をもっと増やしたい。」

農業に関わる地域の皆とともに、明るいほうへと向かってゆく。

(取材/ライティング:杉本友美)



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