インタビュイー プロフィール
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株式会社いのさん農園 代表取締役社長 岡田孝幸さん
いのさん農園は2009年に設立、翌2010年よりブルーベリー観光農園を開園した。現在はブルーベリー狩り、イチゴ狩りをはじめ、直売所「ヤマノウエ」、バーベキュー場、キャンプサイトなどを運営。直売所ではジャムやドリンク、酢、キャンディやスイーツを販売している。
現在、いのさん農園様は休園されていますので、2024年のわたしたちのプリンで利用するブルーベリーは他の農園様にご提供いただいております。
「僕は本物を作るのは得意なんです。ただ、作ることに特化しすぎて、思いをうまく伝えきれていない。」
プリンタイムでは、いのさん農園のブルーベリーを使ったプリンを販売している。今回のご縁について岡田さんはこう語る。
「うちのブルーベリーを使ってもらえる、僕も使っていただきたいと思ったのは、うちの本当の『美味しい』をちゃんと伝えていただける方だと思ったから。だから協力していきたいし、二社で発展していける、そう思っています。」
今後も自らの思いや相手の思いに共感し合える方と、新しい価値を作りだしていきたいという岡田さん。今回はブルーベリーについて、農園の歩みやさまざまな取り組みについて話を伺った。
祖父が家庭菜園をしていて、幼い頃から農業は身近な存在だったという岡田さん。「農」への考え方が大きく変わったのは大学時代だ。友人の実家、山形県のさくらんぼ農家では、さくらんぼの木を大きな冷蔵庫へ入れて収穫時期をずらし栽培していた。
「農業の形は人の英知でコントロールできる、付加価値をつけられる」とハッとしたという。
大学卒業後に東京へ就職したのち、三重県に戻った岡田さんは2010年にブルーベリー観光農園をはじめる。
「地元にあるのは『自然』。自然により近いものを、付加価値をつけて売ろうと。それに加え、私自身が小さい頃からそばや甲殻類などアレルギーがあって。以前から食べ物への関心があったこともあり、農業の道を選びました。」
当時近隣地域でも珍しいブルーベリーを選んだのはこんな理由からだった。
「私はアトピー体質なんですが、生のブルーペリーを食べたとき痒みが治まった気がしたんです。その理由はブルーベリーの抗ヒスタミン成分。せっかくなら自分が食べられるものを作りたいと思って。」
「いのさん」は地名である「猪の倉」の「いの」と、フランス語の「イノサン(無邪気な)」から名付けられた。人が集まれる環境を作り、集まる人が増え、皆で交流できたらいいなと、地域活性にも関心があった岡田さん。だからいのさん農園はブルーベリーの栽培・出荷ではなく、皆で楽しめる「観光」農園なのだという。
津市白山町はほどよく自然。大阪、名古屋、京都へは電車や車で1時間ほどで行ける「便利な田舎」だ。農業では米やキャベツ、イモ類、大根、自然薯など多品種の野菜が栽培され、海では小女子もとれる。
「うちの農園の周りは山に囲まれていて。シカやハクビシン、タヌキ、キツネ、サル、イノシシなどが出る。ワナや網で捕まえることもありますね。自然とうまく共存している分、大変なこともあるけれど、農薬などのリスクは少ないといえるかな。」
いのさん農園のブルーベリーは甘くて大きな実が特徴だ。
「うちは自己溶液を使い、ポット栽培しています。大学時代の専攻が化学だったこともあり、配合肥料じゃなくて単肥を使い、それぞれ木の状態を見ながら自分で調整しているんです。オーダーメイドの肥料やね。」
アントシアニン2倍、残留農薬ゼロというのも、いのさん農園のブルーベリーだからこそ。アントシアニン量は、肥料とか温度、剪定の仕方も大きく関係してくるという。
「光を当てなければいけないところにうまく光が当たるよう、必要な場所を剪定しています。結果、木が強くなればエネルギー量をたくさん貯められる。ブルーベリー自体にエネルギーを貯めさせるように作れるから、甘く大きな実になります。」
ブルーベリーの実についている白い粉、皆さんはどうしているだろうか?
「白い粉は『ブルーム』っていうんやけど、あれは自分を守るために自分で出している粉。洗わずに保存してほしい。洗うと水分量が保持できにくくなって表面が乾いてしまうから。」
そして実はブルーベリーにはこんな効果もあると、岡田さんは教えてくれた。
「実は便秘にも効くんです。ブルーベリーは食物繊維量が果物の中でもトップクラスで、しかも水溶性と不溶性の食物繊維が含まれている。不溶性が便意を脳に促して、水溶性で水に溶けて流しやすくしてくれるんですよ。」
実は岡田さん、普段の仕事は「電話をかけまくってます」とのこと。自ら農作業をすることもあるが、スタッフさんにも任せつつ、2020年に立ち上げた一般社団法人では地域活性化事業にも取り組む。移住相談を受けたり、山で木を切ったり、人と人をつないだり、時には講師として話をしたり、あらゆる場所で奔走する。
いのさん農園ではバーベキューやキャンプも楽しめるのだが、岡田さんのこんな人柄が垣間見えた。
「僕自身が好きだから、好きなことを仕事にしていっている感じですね(笑)。で、僕自身めっちゃ忙しいんですけど、焚き火が大好きで。忙しいときにあえてぼーっと焚き火を見ながら、くだらん話をしとるのが大好きです。」
最後に、今後やりたいことについて尋ねてみた。
「もう少し、今までにない価値の見出し方を見つけていきたい。例えば、ただの山でしかない富士山に行きたい人がおるように、三重県や白山町にそういう付加価値がつけられないかなと。今はブルーベリーやイチゴを作っていて農園に来てくれる人がいる、けれど作れなくなったときにどうする?一段上の付加価値を見つけたい、って思ってます。」
(取材/ライティング:杉本友美)
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鈴鹿の七樹(ななき)は代表の山口さん、取締役の伊藤さんと水野さんの3人で2018年に立ち上げた。三重県鈴鹿市で碾茶の栽培、摘み取り、茶葉の加工を行っている。この他には多肉植物のセダム、マスカット(シャインマスカット・クイーンニーナ)を栽培。実家は同じく鈴鹿市の「まる仁製茶」で、煎茶やかぶせ茶など急須で飲むお茶を加工している。
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高知県安芸市にある安芸川周辺で、土佐文旦(柑橘類の一種)や柚子をはじめ、何十種類もの柑橘類を栽培している。実家は元々祖父の代から続く柑橘類栽培の農家であり、31歳の時に農園を継ぐことを選んだ。当初は文旦とみかん、少しの柚子だったが、現在は文旦と柚子を主とし、継いだ当初の約3倍の面積でさまざまな柑橘類の栽培に尽力する。