ゆく先の足元を照らして~ランタンの「設計」への思い~

インタビュー

Share on

インタビュイー プロフィール

インタビュイー プロフィール

建築設計事務所ランタン 代表 山路康之さん

大学院卒業から数年後、2004年に建築士として設計事務所に所属。その後、2018年に建築設計事務所ランタンとして独立した。夫婦ともに一級建築士の資格を持ち「ひとつひとつていねいに」、二人三脚でお互いができることをカバーし合いながら設計と向き合う。

「建築士は、建物を立てる際の『道先案内人』のようなものだと思っています。」

家を建てることは、人生でそう何度も経験することではない。そんな中で、お客様が一歩ずつ歩んでいく際のともしびになれたら…。「ランタン」にはそんな思いが込められているそうだ。

プリンタイムの店舗は建築設計事務所ランタンの協力のもと、設計、建築の運びとなった。今回は代表の山路さんに、ランタンについて、設計について話を伺った。





その建物を建てる理由は?なぜ必要なのか?

ランタン山路さんの設計による住宅兼事務所。事前予約を入れれば見学可能だ。

ご依頼をいただいた際、まず「なぜ建てないといけないのか」からはじまり、何度も話し合いを重ねながらお互いの考えをすり合わせていくという。相手の気持ちを汲み取り、整理しながら一歩ずつ進んでいく。

「同じ言葉でも、微妙にニュアンスが違うこともある。その小さい変化に気づいて、さらに一歩踏み込んで対話し、検討する。お客様の人間性も含め、対話を通じてより理解を深められるよう心がけています。やっぱり、一番良い形にしたいと思うので。」

整理するための必要な情報は、とにかく集められるものはすべて集めておき、そこから選別する。例えば敷地の条件、駐車場の位置など。外装・内装でいえばデザインや素材、必要な機器、適した導線…。建物ひとつで、決めるべき物事は山のようにある。

ランタンでは、夫婦二人の知恵を絞り、分担しながら設計にたずさわる。図面や建築パース(建物の外観や内部を立体的に表現した図)などは奥さんの担当、山路さんはイメージを手書きしながら頭の中を整理する作業、ゾーニング(どの空間をどこに配置するかを決めること)などが中心だ。

「一人じゃなくて多角的に見て考えていける。夫婦二人、1+1が2以上になっているといえるかもしれませんね。」

問いへの返答を繰り返し、形になっていく

普段も使用しているというキッチン。実際に暮らすイメージが湧いてくる。

建物を建てるとなった場合、何から決めていくのかはお客様次第だ。

「例えば、どのくらいの大きさの建物が建てられるのか、と言われれば、敷地の調査をして条件整理をした上で提案します。デザイン、見た目について言われれば、お好みの画像をいくつか提示していただき、イメージを膨らませていきます。男性と女性で全く視点が異なるのも面白いですね。」

お客様の言葉に返答を繰り返しながら提案が進んでいく。そして、コストを踏まえてあらゆるものをそぎ落としながら、内容を詰めていくそうだ。

建築途中では「これを増やしたい」「位置をずらしたい」というケースもあるという。

「当初に決まった契約で建て始めるのですが、途中で変わることもありますね。作業の進捗上、現実的にできないことは無理ですが、可能であればお客様の要望に合わせて変更して。特に売り場などは、照明器具の位置など、建設中に変わってきたりしますね。」

ゼロからのスタート。ご縁がつながり今がある

室内には、設計やデザインにまつわる書籍類も置かれている。

山路さんの1日は、頭のスッキリした午前中に設計の平面図を書いたり、アイデアをまとめたり。午後には現場の確認、お客様との打ち合わせ、やるべきことの整理など。時には1日中同じ作業に集中することもあり、必ず決まったルーティンはない。

前職では規模の大きい設計事務所で、大手ショッピングセンターや公共建築などに携わることもあったとか。

「それぞれの専門分野のプロとチームを組んで設計に携わった経験は、今の活動にも活きていますね。」

ランタンを創業してからは、規模の大小にかからわず、ご縁があった方々の思いを「建物」という形にすべく、丁寧に真摯にお客さまと向き合ってきた。

「独立したときは、本当にゼロからのスタートでした。売り込みも得意ではなくて(笑)。そんなときにご縁をいただき、ある飲食店の店舗建築を任せていただいて。そこからつながったご縁も含め、人づたいでご相談いただくことが増えました。」

ランタンとプリンタイムのこと

山路さん設計による、プリンタイムの店舗。随所にちりばめられた工夫と熱い思い。

今回のプリンタイムの店舗設計について、山路さんは「ご来店いただくお客様にどういった雰囲気と印象を持っていただきたいか」をしっかり話し合い、できるだけそれが叶い、かつ現実的な内外装を提案したという。

さらに、プリン専門厨房のあり方、梱包や品出し、配送までの効率的な導線、将来的なことを考えてのスペース確保など、あらゆる側面からオーナーの要望を踏まえて提案、設計した。

「はじめてオーナーの後久さんにお会いした際に言われたのが『今まではIT事業でシステムという手に取って触れないものを取り扱ってきたが、プリンという形あるものを提供したい』ということ。それによってプリンタイムのお客様に喜んでいただけて、多くの方に幸せになっていただけたら、と願っています。」

離れてわかる三重の魅力。古きよきものへの思い

住宅兼事務所にある中庭。天気がいい日には中庭で緑を眺めながらひとときを。

山路さんは、大学進学で県外に出て、その後三重に帰ってきたUターン組だ。県外から帰ってきて、はじめて「いいところだな」と実感したという。

学生時代には古民家について研究。大学の卒業研究では、関宿の「道の駅」建築をテーマに選んだ。

「偶然ですが、現在道の駅がある場所に、当時はなかった道の駅を作るという内容でした。国道一号線と旧街道がクロスする立地で、ここが最適だなと思ったんです。その関係で古民家、町屋、農家などの建物に関心があって。解体する際の実測調査などにも参加して、当時の寸法など、古民家の建て方を学びました。」

例えば丸太梁を使うなど、古民家のエッセンスを取り入れた設計事例もあるという。

休日は、昨年購入したキャンピングカーでの宿泊と釣り、旅行などを楽しむ。キャンピングカーは中古を購入し、自らが内装などをデザイン。夫婦で相談しながら作り上げたオンリーワンだ。旅先では建築士ならではの視点で、新しい建物を見て歩くこともあるという。

凝り性で真面目、驚くような実行力と何でもやってみたい好奇心にあふれる山路さん。今後について教えてくれた。

「フィーリングの合う方々とより良き建物の設計を目指し、じっくりと向き合わせていただけたらと思っています。決して効率は良くないかもしれない。でも、お客さまと何度も対話を重ねて、それらの思いを形にした建物をつくれたら嬉しいですね。」

(取材/ライティング:杉本友美)