インタビュイー プロフィール
インタビュイー プロフィール
深緑茶房 本店 日本茶インストラクター 堀川 遊民さん
2007年に深緑茶房へ入社。日本茶インストラクターとして、お茶の淹れ方や飲み方、文化などを伝える役割を担う。この他、自宅でパン教室を開いていた縁から調理師免許を保有し、店内で提供している菓子類の製造開発をサポ―トするなど多方面から深緑茶房を支える。
「こんなにおいしいお茶があるなんて――。そう言ってくださるお客様の笑顔を見るたびに、続けてきてよかったと心から思います。」
松阪市飯南町(いいなんちょう)にある「深緑茶房(しんりょくさぼう)」は、三軒の茶農家が集い、1999年に立ち上げた製茶と販売の会社。かつて町内に400軒もあったという茶農家が減少し続ける中、「この土地のお茶文化と風景を守りたい」という共通の想いが、会社設立の原点だった。
自ら育てた茶葉を摘み取り、製茶し、店頭で淹れて提供する――そのすべての工程を一貫して行う体制は、全国でも珍しい。店舗併設の日本茶カフェでは、本格的な日本茶を提供しながら、お茶の魅力や淹れ方を伝える活動も精力的に行っている。
プリンタイムでは、深緑茶房でつくられたほうじ茶を使った『かため×ほうじ茶』を販売している。今回は、深緑茶房の中心スタッフとして活躍する堀川さんに、お茶への想い、日々の取り組みについて話を伺った。
堀川さんの実家にも、嫁ぎ先にも茶畑はあった。お茶は常に生活の一部、身近な存在である一方、「お茶の淹れ方」については、実のところあまりよく知らなかったという。
「お茶はあって当たり前。深く考えずただ普通に飲んでいました。だから、こんなにも淹れ方で味が変わるなんて、最初は驚きの連続でしたね。」
結婚・出産・育児を経て、縁があり深緑茶房に関わり始めた堀川さん。子育て・家事と仕事の両立をしながら働く中、やがてお茶の世界の奥深さに魅了され、日本茶インストラクターの資格を取得。今では、商品開発や教育活動にも積極的に関わっている。
一般的なほうじ茶は、葉の部分を使ったものと茎の部分を使ったものの2種類に分かれる。深緑茶房でつくられているほうじ茶は、茎の部分だけを使用。「まろやかな甘み」と「旨味」が特長だ。
「葉を焙じたお茶だと、時間が経つにつれて酸味が出てしまうことがあるんです。でも、茎だけのほうじ茶は、まろやかで旨味たっぷり。すっきりとした味わいを楽しめます。」
しかも使用するのは、基本的には一番茶の茎の部分。そして製法にも特徴がある。深緑茶房では基本的に深蒸しだ。通常より3倍ほど長く蒸すことで茶葉の成分をしっかり引き出し、それを焙じる。火の香りが立ち上り、豊かな味と香りが五感を刺激する。
深緑茶房では、「お茶を飲む文化」を次世代に伝える活動にも力を入れている。地元の小学校や市のイベントなどに出向き、お茶の淹れ方や味の違いを伝える講座を実施。最初は渋みを嫌がっていた子どもたちが、自分で急須を使ってお茶を淹れると、不思議と表情が変わっていくのだそう。
「初めは『苦い、飲めない』と言っていた子が、気づけば『おかわり!』と言ってくれている。そんな瞬間がとても嬉しいですね。」
お茶に含まれる旨味、渋み、甘みなどの多様な味わいは、味覚の発達にも効果があると言われている。単に飲み物としてのお茶ではなく、「感じる」ことで子どもたちの五感が研ぎ澄まされていく。
こうした取り組みを深緑茶房では「お茶育」と呼んでいる。お茶育は農林水産省でも令和5年1月より「茶業関係者×農林水産省『茶育』プロジェクト」として推進。国をあげての取り組みを、黎明期から積極的に行っている。
1999年の設立当初は、小さなプレハブからのスタートだったという深緑茶房。今では日本茶カフェも併設され、三重県内外から多くのファンが訪れるようになった。三世代につながり、ご来店いただくこともあるという。
「おじいちゃん、おばあちゃんが来てくださり、それをきっかけにご家族が訪れ、次はお孫さんと。そんなふうに、お茶が人と人をつなげてくれることが何より嬉しいです。」
スタッフによる新商品の企画、イベント出店、地域との連携など、多角的な取り組みは尽きない。良質な雑貨・食品などを扱うことで知られる販売店や、県外のアンテナショップでの講座開催など、地元を超えて日本茶の魅力を発信している。
「お茶は、その土地の風土、歴史、人の想いを含んでいます。だからこそ、私たちはこの地域、深緑茶房で育て、製茶したお茶だけを扱う。それが、私たちの使命です。」
堀川さんが語る言葉には、終わりのない探究心がにじむ。製茶や淹れ方の技術だけではなく、歴史や文化、地域経済など、学ぶべきことは数知れない。
「インストラクターの資格を取得したとき、知識を得たというよりも、むしろようやくスタート地点に立てた気がしました。お茶の世界は本当に広くて、今も毎日が学びの連続です。」
自宅でのパン教室開催や調理師免許の取得といった堀川さんの過去の経験も、今の仕事に生かされている。スタッフと共に、スイーツの開発や味の調整にも関わり、すべてが深緑茶房の「味」をつくる要素となっている。
「お茶って、本当に奥が深いんです。同じ茶葉でも、育った畑や摘み取る時期、製法で全く違う味になる。まるで生き物のように、毎年表情を変えるんです。」
静かな山里の風景の中で、深緑茶房の人々は今日も丁寧にお茶を育て、届けている。目の前の急須から注ぐお茶、立ち上る湯気に、長い歴史と、多くの人の想いが込められている。
「お茶はただ飲むものじゃなくて、心を整え、暮らしを彩るもの。そんな時間を、これからも多くの方に届けていきたいです。」
一煎、一煎を大切に。お茶を通じて人とつながり、地域を照らし続ける――深緑茶房の物語は、これからも静かに、力強く続いていく。
(取材/ライティング:杉本友美)
390円(税込)
卵黄をたっぷり使用した濃厚な味わいのたまごプリンに、甘みがあり後味がすっきりしているほうじ茶を合わせました。ほうじ茶の深みのある味わいが口の中に長く残り、香ばしい上品な香りがふわっと鼻に抜けて、食べた後の余韻までじっくり楽しめるフレーバーです。ほろ苦いカラメルと絡めてお召し上がりください。